インフレ期のTIPSはインフレヘッジにならない問題。
金利が上昇すると起こるのが債券価格の下落と株式市場からの資金の流出です。
株式のリスクは債券より大きいため、資産を債券に逃避させたいとは思うものの、金利上昇時に下がり続ける資産の組入に抵抗感を持つ人もいらっしゃると思います。
金利上昇≒インフレのヘッジに有効だと思われている資産がTIPSです。
TIPSはCPIに追従するように元本が調整される(金利は固定)債券であるため満期時に物価調整済みで一定のリターンが約束された証券です。(デフレにも追従しますが額面割れはありません。)
と、ここで疑問が出てきます。
物価調整済みリターンが確約されているなら、世界中の投資家が物価変動リスクのある通常の名目利回り債券を買っているのはなぜなのか?ばかなのか?
少しTIPSを分解してみましょう。
名目利回り=
実質利回り+期待インフレ率+インフレ・リスク・プレミアム
となります。
リスクプレミアムはインフレに連動するクーポンに影響しない項として名目利回りに足されてしまうため、その分TIPSのリターンに影響します。インフレリスクプレミアムが高いほどTIPSが割り引かれることになり、リターンにマイナスです。
インフレリスクプレミアムとは、インフレ率が将来不確実な事の代償として、物価変動リスクを引き受けている債券投資家が要求しているプレミアムですから、TIPS保有者はインフレに連動する事に対する保険料を名目利回り債券投資家に支払っている事になります。
(逆に言えば、名目利回り債券投資家もオプション料を払うことで物価上昇をヘッジ出来ることに...恐らくこれが先程の疑問の答え)
このインフレリスクプレミアムの扱いはまちまちで、無視しても良いとする意見もあります。
ただし、リスク・プレミアムについてはその測定が容易ではないため、一般的に、ブレーク・イーブン・インフレ率をほぼ市場の期待インフレに等しいとみなして利用されています。
インフレリスクプレミアムの過去の推計が下の画像。
The Term Structure of Real Rates and Expected Inflation
PIMCOのページの通り、BEIと期待インフレ率が等しいとするなら赤の点線(期待インフレ率:Expected Inflation)と緑の点線(BEI:Inflation Compensation)は一致しなければなりませんが、そうはなっていません。大体50~150bpは離れています。この差をどう捉えるかですね。変動が緩やかor一定なら対処のしようもあるのでしょうがかなり激しく動いています。
興味深いのは1960年代から1980年代前半まで続いた金利の上昇局面ではインフレリスクプレミアムは比較的高く、ゆるやかな右肩上がりであることです。1985年から先はゆっくりとそれが剥落しています。
これは過去、高インフレ時と好景気時のTIPSは金利上昇と歩調を合わせて割引されていくため、インフレヘッジに役に立っていない事を示しています。このような時期にはTIPSに近づかないほうが良いと思いますがどうでしょうか?
2015年末からなんだかんだ言って金利上昇が続いていますが、TIPSを買えば簡単にインフレヘッジになると考える投資家が多ければ多いほどTIPSのリターンはインフレに追従しない事が懸念されます。
言い方を変えればインフレに追従するための保険料はインフレ期に多く発生し、名目利回り債券投資家がオプション取引でインフレヘッジした場合のリターンと常に同じになる。というものでしょうか?流動性プレミアが乗っている分だけTIPS投資家に追い風かもしれません。TIPSはかなり上級者向けの投資対象に感じます。私はしばらく近づけそうもありません。
TIPSを買うべき局面というのは、プレミアが完全に剥落(できればマイナス!)した時、つまりデフレを市場が見込んでいるときなのではと思います。
と、ここまで書いたところでイタリアが面白い事になってますね。インフレとかどうでも良くなってきました。まだまだ質への逃避が散発的に取り沙汰されそうです。