泡沫投資家ノディの米国株入門

インフレに勝ちたい

高利回りETFのPFFは株主と経営者を敵に回す金融商品(iシェアーズ米国優先株式ETF)

証券会社のETF売買ランキングで常に上位にいる異質な銘柄があります。高分配でお馴染みPFF(iシェアーズ米国優先株式ETF)です。

f:id:hobogo-mila:20180718004935p:plain

2018年7月18日時点の週間保有残高ランキング(SBI証券HPより)

 

以前当ブログでもPFFを紹介したことがあるのですが、ブログ始めてすぐに書いた記事のため、読み返すと恥ずかしくなるような見識の浅い文章なので改めて書き直してみました。

↓以前の記事です↓

www.homatsu-noddy.com

 

ーーーーーー

 

ETFの最新の概況は下記リンクから確認できます。

www.blackrock.com

 

 

巷で言われるPFFの特徴として主に下記3点が挙げられます。

・金融危機時でない時は普通株式より安定した値動き

・高い利回りを誇るがトータルリターンでは普通株式を下回る

・金利上昇時では取引値は下落しやすい

 これらはすべて債券的な性質で説明できます。

 

ここでは普通株式に比べて配当と残余財産を優先的に受け取れる証券として優先株式≒社債とみなして考えます。

まずPFFの分配金は概ね横ばいです。優先株の配当金が横ばいだからです。そのため将来キャッシュフローの割引現在価値である取引値も横ばいになるので基準価格の上昇は望めません。

優先株は普通株式と違い議決権が無く、債権者と比べて支払いが劣後しても許される都合の良い資金調達手段です。

配当割引モデルによると期待リターンは配当利回り+配当成長率で表されます。仮に配当成長率をゼロとすると名目期待リターン=配当利回りとなり、分配金利回り6%をもってしても株式の長期的な実質リターンには届きません。株式に匹敵するほどのリスクを背負っていないと市場はみなしています。

また、分配金が横ばいであるPFFは金利感応度が高いです。金利上昇時は割引率が上がるため、将来価値の辻褄を合わせようと市場が価格を押し下げ、利回りを上昇させますが、リスクフリーレートも上がっているため実質トータルリターンは改善しません。

償還日に向かって価格が上がっていくロールダウン効果も優先株には望めません。

一方で配当(利息)の支払いに問題が発生するような時(いわゆるデフォルトが懸念されている時)は価値が下落するリスクが存在します。

PFFに多く組み入れられている金融、不動産セクターのデフォルト懸念が増している時は間違いなく不景気なタイミングであるため、金融危機の時期と重なることが予想されます。また、流動性の乏しい資産のためリスク資産から資金が引き上げられる際には取引値が急落しやすいことも考えられます。

 

ところで、細かい内容は省略しますがデフォルトモデルによる社債のリターンは

リスクフリー資産+プットオプションの売り

となっています。

f:id:hobogo-mila:20180717231941p:plain

感覚的に言うと、残余財産や利息の支払いが優先される代わりに、債券投資家のリターンは予め決められた利率のみに抑えられ、企業価値が上がった時の利益は株価の上昇として普通株主の手の中に、下がった時の損失はデフォルトとして債券投資家に押し付けられるのです。

しかも財務レバレッジを増やせば債券投資家のお金をそのまま、普通株主のために自社株買いや配当、事業への再投資という形で移転させ、債券投資家にはリスクだけを残すこともできます。

このように、アップサイドが限定的であるのに、ダウンサイドはしっかり存在するという非対称性が社債や優先株投資の性質となります。(優先株式は条項によって性質が異なる場合もあります)

そんな証券を誰が買うのだろうか?となるので投資妙味を感じる水準まで取引値を下げて利回りを引き上げさせます。

デフォルトが発生しなければ国債に比べて高リターンを享受できるようにするのです。というよりも国債との利回り差による超過リターンはデフォルト発生時に殆ど取り上げられてしまいます。

 

PFFの利益の源泉は保険料の徴収に近く、普通株式が持つ価値創造とは性質が異なります。

 

その他の問題点として、普通株主と債券・優先株投資家が対立する宿命にあることが挙げられます。経営者は有限責任の普通株主のために任命されているのでリスクを取って事業を回すインセンティブを持っていますが、増えたリスクは事業に成功しても利益が増えることの無い債券投資家が丸抱えです。そのため過剰なリスクを抱え込まないように債券投資家は企業価値をモニタリングしていますが、そのモニタリングコストを負担しているのも債券投資家なのです。

債券・優先株投資家にとっては、投資先企業の株価は上がったら嫌な思いをしますし、下がってしまっても困る立場に置かれています。ボラティリティをショートしているため、PFFや社債ETFはVIXインバース型金融商品の親戚と言ってもいいでしょう。

 

ここまで社債の評価モデルを軸に話を進めました。投資するにあたっては優先株とは厳密には異なる事をご考慮ください。優先株には普通株への転換などの条項が付与されている場合もあり、評価モデルが複雑になってしまうのです。PFF投資を考えている人はデリバティブやオプション取引。MM理論について書かれた、ちゃんとした書籍を読んでみてください。

 

もし、私がPFFへの投資を検討するとしたらオプション価格の決定式を頭に叩き込んだ上で

・100年に一度と言われたリーマンショックの記憶が市場に色濃く残っているため、不当に高い分配金利回りとなっている可能性(今度のリセッションは資本主義の死が公然と話題になるような深刻な信用収縮を伴わない可能性)

・リーマンショックでは金融機関は大きすぎて潰せないという実績が残った。次もデフォルトリスクが顕在化しない可能性に賭けるべきかどうか?(→第一次大戦で”戦争は買い”というセオリーが誕生したが、20年後の第二次大戦ではあまり役に立たなかった例もある。底値でPFFを仕込もうなどと考えない方が良いかも?)

・リーマンショックには耐えたが、次はどうか?(早期償還の可能性)

・第三者割当されている優先株の割合と条項の確認及び増資の可能性(取引値の大幅な下落が起こり元に戻らない可能性)

・金利水準のトレンド

・景気の悪いときに価値が下落するという株式との分散効果の低さ

を考えます。

もっと知識が増えれば別の視点があるかもしれませんが...長期的に株式に劣後する未来しか見えないので私がPFFを買うことは無いと思います。

 

 

信託報酬にあたる経費率は0.47%

ブラックロック株主の私から言わせていただくとこれは安い。

何せ唯一無二の商品です。

 

 

ーーーーーー

関連していない関連記事です

www.homatsu-noddy.com

 

スポンサード