泡沫投資家ノディの米国株入門

インフレに勝ちたい

株式リターンの要因分解_成長株は売上成長、成熟企業は利益率変化に注目。ディフェンシブ企業はどん詰まり。

株式のバリュエーション評価で最も目にするPER。

投資家の期待と、利益と株価の3つの要素に左右される指標なので、PERだけ見てもよく分からないのが実情。

おまけにPERが低いという事は期待リターンの高さを示唆しているものの、将来リターンとして実現するかどうかはまた別の話という問題もあります。

IBMのPEが12倍な事や、アマゾンのそれが160倍であることに不思議は無いとしても、それが将来どう動くかまでは私には分かりません。

が、ある変数を一定のものと仮定することでモヤモヤ感がいくらか取り除けるのではないか?というのが今回の目的。ちょうど本を読んでいたら面白い図を見つけました。

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引用元はマッキンゼー・アンド・カンパニーの『企業価値評価 バリュエーションの理論と実践』

この図ではPERを「投資家の期待」と近似しています。現在の株価が現在の企業価値と比較して概ね妥当だとした場合、次の期におけるリターンの中身を推測しやすくなると思いませんか?

例えば、「利益成長と株価上昇がアンマッチであったため、投資家の期待が変化したようだ。」といった感じです。投資先企業のステージに合わせて図を使っていけば自分なりのシナリオを組むことに役立ちそうです。

 

成長株の場合

成長株の定義は色々(簿価時価比率とか)ありますが、ここでは利益を出し始めた売上成長中の株を考えます。

当然配当性向は0%

売上成長率は時間が経つと最終的には実質GDP成長率程度まで減衰するのですが、営業利益率は時間の経過によってあまり減衰しないとも本書に記載されています。

よって上の図を乱暴に書き換えると下図のようになります。

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グレーの部分は変化しないと仮定した要素を表現しています。

このように整理すればPEの変化率(投資家の期待)と売上成長が株主総リターンの源泉となる事がわかります。

現在、グロース株は情報技術セクターに多いのですが、すでにこれらの企業の利益率は高水準のため、利益率の上昇よりも売上成長を目指した方が効率が良いです。(例えば、利益率を40%から41%に上げることにリソースを割くよりも、利益率を保ちつつ売上を10%増やす事に集中する方が良い。フェイスブックは利益率の維持に失敗しそうだが...)

売上が成長しつつ利益率を維持するためにはパイが拡大中で、競合全員で恩恵に与れる市場にアクセスしている事が重要でしょうか。

過去半世紀間のヘルスケアセクターとか

 

投資家の期待が剥落してくると、売上成長と株価上昇にズレが生じ始め、過去の成長から見ると割安に見えそうですが私には罠が仕掛けてあるようにしか感じません。期待と成長の時間変化が重要なので今の株価が過去の成長に対して割安であるかどうかはノイズに過ぎないのではないか?と思います。

 

景気敏感型成熟企業の場合

成長株に比べて大きすぎない範囲の期待感、拡大の終わった市場で実質GDP成長率程度の売上成長。資本集約型で低い利益率。競争の激しい工業株や航空株のイメージです。

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利益成長が長期的に実質GDP成長率と同等とみなせば、それはインフレ調整後の利益成長が無い株です。投資家の期待が変化することに賭けるようなもので、典型的な万年割安株でしょう。材料無しにはとても買えません。景気の波を捉えることが必要になりそうです。きっと高ベータ株でシャープレシオは低いと考えられます。

マクロファクターを利用せずに自己成長を遂げるには競合にとって模倣するのが難しい独自の方法で利益率を上げる、あるいは政府発注の仕事を利用して資本集約度を下げ、コモディティ化とシクリカルからの脱出を図ることが必要でしょう。希望はあります。利益率が2%から4%に上がってもリターンは倍ですから。

 

ディフェンシブ成熟企業の場合

素晴らしいブランドを持ち、競合よりも顧客に対する価格交渉力が強く、需要が安定しているため資本集約度はとても低く。株主還元に積極的。食品・日用品、そしてタバコ会社のイメージです。

(資本集約度の高い電気通信、公益株は含めないとします。)

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画像は一つ上と同じです。

景気が良いからと言って洗濯機を何台も買って動かすわけでは無いし、一日10食ゼネラル・ミルズのチェリオスを食べるわけでも無いし、コルゲートの歯磨き粉を一日一本贅沢に使ったりすることは無いのでM&Aの影響を除けば売上成長は実質GDP成長率≒インフレ率程度でしょう。

ディフェンシブ企業の悲劇は、成熟した工業株と異なり、すでに利益率が十分に高いということにあり、現在の株価にはそれは概ね織り込み済みです。あくまで大事なのは経時変化をどう予想するかです。それができれば苦労はしないのですけれど、アップサイドが限られているのは簡単に想像できます。

ディフェンシブ企業はインフレ調整後の売上に強力な成長は望めないですし、既に高い利益率を改善して、さらなる成長を目指そうにも限度があるので、事業へ再投資を行ったときの効用はとても低い。おまけに不景気時に強い特徴を活かし、余分な資産は全部株主に還元済みです。利益成長無くして配当成長も無し。そして売上を伸ばすための買収はプレミアをたっぷり付けられた上に、資金は借り入れに頼る。これだけ見れば八方塞がりどん詰まりです。

時折話題になる「タバコ株終わった仮説」、私なりの考えは「PERが一定ならばタバコ株はすでに終わっている」です。成長の罠を利用しないとマトモなリターンは得られないと思います。いつ買っても良い株は存在しないという考えは他の投資スタイルと変わらないと思います。

ゼロ成長リターンである益回りが10%を軽く超えてくれないと個別株のリスクを取ってまで保有するメリットが無いのでは?というのが私の率直な考え。そしてこれから資産を形成する新規投資家のためには過去半世紀バックミラーで素晴らしい成績を残してきた株価には一旦下がってもらわなくてはなりません。

 

生活必需品セクターは低ベータなのは素晴らしいので小型株含めた等金額加重ETFがあれば最高ですね。

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