我々は何を見ていたのか...「理解できるものに投資する」というイリュージョン。
「理解できないものには投資しない。」
と口酸っぱく言う人、アドバイスを出す人はたくさんいる。
投資家であればいずれかの資産に投資しているはずなので、その人は投資先について理解している ということになる。
2月以降の株式は債券に背中から蹴飛ばされ高値から突き落とされた。
2月より前に保有株の金利に対する感応度がどれくらいか見積もっていた人がいただろうか?あるいは先手を打って現金に変えていた人は?
どれだけの投資家が投資先の事を理解していたのだろうか?
私は一体何を見ていたのか?
上記のセリフはバフェット氏の格言として扱われているが、おそらくバフェット氏にしか通用しないものだと思う。
レイ・ダリオ「この世はジャングル」
日本人米国株投資家「バカでも社長が務まるようなワイドモートを持ち、理解できるビジネスを持つ会社に投資。それを買い持ちすれば良い!」
人間には「イリュージョン・オブ・コントロール」なる心理(日本語訳がいまいち定まっていないようだ)があり、理解できそうなものしか見ようとせず、理解できない分野は勉強すらしない。
しかも少しでも知った気になっている分野では自分の能力を過信してしまう傾向にあるようだ。
その結果は想像どおり、市場の認識と自分の認識が食い違い、「市場はおおむね合理的である。」という別の格言との矛盾が引き起こされる。ついには損失回避の誘惑に負けて売ってしまうか、塩漬け株の完成である。もっと悪くすれば「市場はバカだな~」などと言ってのけるかもしれない。
優良株のバイ・アンド・ホールドで簡単に金持ちになれるのなら、我々の周囲の人たちはみんな金持ちであるはずなのだが、そうはなっていない。
ごく普通のメンタリティを持つ人間が株をついつい安値で投げ売ってしまうような普遍的な罠が仕掛けられていると考える方が自然だ。
私はその罠が行動ファイナンスに起因する何かだろうと思っているので、自然な人間が持つ効用曲線を過去の傾向とデータを使って直線に矯正しようとしている。
他人は愚かで近視眼的で、自分は普通の人間じゃないから大丈夫。
とはならないと思う。
自分に余計な自信をもたらすような偉人の格言は害毒としか思えない。
もちろん、訳のわからない仕組債や高金利通貨建てリートのような投資対象を避けるためには有効だが...
そもそも、今日のグローバルでリアルタイムな資本市場は株式、債券、商品、そしてもちろん実体経済や地政学といった複合的な要因で揺れ動いている。
株式市場だけ理解していれば良いということは無いはずだ。
存在感が大きいのは債券市場で、
例えば日本の国債発行残高は財務省のページ(国債等関係諸資料 : 財務省)を見ると1200兆円、東証の時価総額の倍近くある。
1日の売買高は日本国債は30兆円程度(上画像の数字を20日で割るとそれくらい?)
一方我らが東証では1日で2兆円から3兆円ほどの売買代金でしかない。
日本に限らず債券市場は株式市場より取引が盛んな上、機関投資家が殆どを占める魑魅魍魎が跋扈する場であろう。
これは世界の株式市場の年間売買代金だが、米国債はたった1日で5000億ドルほど取引されている。100日も営業していれば株式の代金をあっさり上回る規模だ。
魑魅魍魎なプレーヤーたちがあらゆる経済指標を即座に折りこみ、債券価格を決定するたびに株式市場は揺れ動くだろうし、利上げ局面ではものすごい勢いで資金が吸い上げられて行くことは簡単に想像できる。
新興国市場やREITなどの比較的小さいマーケットから徐々に抜けていき、最後は先進国株の容赦のない暴落を伴って...
いわば火主水従のようなもので、気まぐれに放水しているダム(株式市場)を見てあれこれ論ずるよりも、火力発電所(債券市場)を見た方が理解するのに良いかもしれない。
ともかく、今理解できていない分野にも視線を向けたい。
盲目的にコカ・コーラ社のワイドモートについて繰り返し調べる暇があったら他の市場も勉強した方が良いと思った。
コカ・コーラ持ってないけど。
同じ棍棒で殴られるのなら、背後から不意に来るよりも見えている正面からの方がマシだからだ。
上手く行けばダメージを抑える事ができるかもしれない。
気絶!
とか、
相場は見ない!
などという行動はせっかくの学習のチャンスをフイにしている。
リアルタイムで金融引き締めからの暴落までを観察できるのは貴重な体験になると思う。今この瞬間が自分の人生の中で一番若いのだから。
ーーー
某所某書店にて
平積みにしている書店が増えてきてますね。ポップ付きは初めて見たので思わず撮影。
なんとも言えない気分で見守っています。